人形ルルの大冒険

人形ルルの大冒険

私の名前はルル 木で作られたお人形
あの子と出会い 愛され愛していた
あの子と過ごした時間はとても長い
この体が軋み 服はほつれるほどに
あの子に愛された幸せな時の中
あの子の父に私は捨てられた
暗くて狭い箱の中 見えたのはあの子の寝顔
硬い扉がそれを私の目から奪い去る

明るい光が差し 目を開けたのは森の中
重い蓋をこじ開け辺りを見る
身の丈より大きな草木に囲まれ
青い空が蓋をしている
あの子にもう一度会いたくて
もう一度愛されたくて
軋む体であの子の元へと駆けて行く

草木を掻き分け見たのは大きなウサギ
足には重く硬い鉄の牙
ひどく苦しむその子を救うため
左手をもぎ取り口をこじ開けた
牙から逃れたウサギは喜び跳ねて
私に溢れんばかりの礼を言う
「私にできる事なら何なりと」
そう言うウサギは問いかける
「あのこの場所へ帰りたい」
そう告げるとウサギは山を指す
あの山を越え その先の川を渡り
栄えた町の先にあると告げた
私はそこへと駆けて行く

山の上へと登り川が見える
そこには大きく暗い穴が遮る
その近くに木に絡まった鳥が一羽
私はそれを助けるために左手を折り
その割れ目の枝でツタを切る
鳥は喜び礼をする 私を向こう岸まで運び
私は川へと駆けて行く

激しい音を轟かせる川へとたどり着いた
川の横へそびえ立つ木に持たれる影がひとつ
大きな前歯をもつ森の大工のビーバーだ
私は服を千切り赤く染みた場所へと巻きつけた
彼は大変喜び 木を倒し橋にした
私はその上をまたかけて行く

遠くには大きな建物の影
あと少し もう少し あの子に会える
視界が落ちる 軋む足の限界だ
手もなく足もなく 想いも止まる
目の前にある届かぬ愛に絶望する
はじめてルルは諦めた 悲しんだ
その時体が宙に舞う 小さな手に包まれて
見えたのはひどくボロボロなあの子の姿
髪はボサボサ 手足は傷だらけ
そうして聞いたのは名を呼ぶ泣き腫らした声
待ち望み 欲しかったあの子の愛情
そして私はまたこの懐かしい部屋の棚から
あの子を今日も見守っている

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